東京高等裁判所 平成4年(ネ)1292号 判決 1992年9月30日
控訴人 野路幹雄
右訴訟代理人弁護士 買原唯光
被控訴人 井上實
右訴訟代理人弁護士 葉山岳夫
同 森健市
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨。
三 当事者双方の主張は、次のとおり当審における主張を加えるほかは、原判決の事実摘示(原判決書「事実及び理由」の第二)記載のとおりであり、証拠の関係は原審記録中の証拠目録記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用する。
1 控訴人の主張。
「被控訴人は、本件土地の所有権を取得したとき、あるいは、本件土地に根抵当権を設定したときに、森屋茂雄の仮登記がなされていることを知っていた。したがって、右仮登記が時効消滅により抹消しうる期間を知りながら、あえて、これを放置したものであるから、被控訴人の消滅時効の主張は権利の濫用にあたる。」
2 被控訴人の認否。
控訴人の右主張は争う。
理由
一 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由があると判断する。その理由は、次に付加するほかは原判決の理由説示(原判決書「事実及び理由」の第三)のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決書三枚目表四行目の「四月七日」を「七月四日」に改める。
2 原判決書三枚目裏四行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「そして、売買予約に基づく所有権移転請求権保全仮登記の経由された不動産につき所有権を取得してその旨の所有権移転登記を経由した者は、仮登記権利者の権利の消滅時効を援用できるところ(最高裁判所平成四年三月一九日判決・裁判所時報一〇七二号参照。)、この理は、条件付所有権移転仮登記の経由された不動産を取得した者についても同様であり、本件において、所有権移転登記を経由している被控訴人は、申請協力請求権の消滅時効を援用することができる。」
3 原判決書三枚目裏一〇行目の「ものではないから」を「ものでないことはもとより、その移転の付記登記は仮登記権利者を登記義務者、仮登記上の権利を取得した者を登記権利者としてなされるものであって、登記簿上の所有名義人を登記義務者としてなされるものではないのであるから」に改める。
二 控訴人は、当審において権利濫用を主張する。しかし、被控訴人が、本件土地に控訴人の条件付所有権移転仮登記がなされていることを知ってそのままに放置していたとしても、だからといって本訴において、申請協力請求権の消滅時効を援用することが権利の濫用になるはずはない(控訴人の論法は、時効制度を援用するのは権利の濫用であるというに等しい。)。控訴人の主張は到底採用することができない。
三 以上のとおりであって、被控訴人の本訴請求は理由があるからこれを認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 滿田明彦 高須要子)
<以下省略>